文字サイズ

TUESレポート

過去10年分を掲載しています

【明治150年】能海寛生誕150周年記念国際シンポジウムの報告

チベットをめざして
12月1日(土)、本学で山陰出身のチベット仏教求法僧、能海寛(のうみ ゆたか 1868-1901?)の生誕150周年を記念する国際シンポジウム「能海寛の風景と思想」が開催されました(参加者66名)。平成30年度公立鳥取環境大学学長裁量経費特別助成による企画です。シンポジウムは二部構成になっていて、第一部「能海寛の風景」では、岡崎秀紀氏(能海研究会長)の基調報告「山陰から世界へ-能海寛と河口慧海の時代」からスタートしました。これをうけて、何大勇氏(雲南民族大学教授)が「チベットをめざして-能海寛の歩いた四川と雲南-」と題する招聘講演をおこない、さらに本学環境学部4年生の森彩夏さんが今夏の西北雲南調査の成果として「奇跡の雪山-能海最期の地をめぐる旅」という短い報告をしました。ティ-ブレイクの時間では、「森さんの発表がとても良かった」という話でもちきりでした。
尊王攘夷の申し子
第二部「能海寛の思想」も引き続き、森彩夏さんが登壇しました。イントロとして能海の主著『世界に於ける仏教徒』の概説役を務め、浅川滋男教授(本学環境学部)にバトンを渡します。明治26年(1893)に出版された『世界に於ける仏教徒』は能海が26歳で書いた著作ですが、欧米の最新事情をよく吸収しているものの、キリスト教や他宗派に対する過激で排他的な発言が繰り返されます。これらの問題点を浅川教授は原文口語訳から逐一読み解いていきました。おもな論点を要約すると、1)宗教に優劣はない。能海のように、仏教が他を圧して優れていることを強調しすぎると戦争やテロを招く。多様に展開する宗教は互いを容認しあうことでしか共存しえない。2)能海の主張は明治維新の原動力であった「尊王攘夷」の思想と重なりあう。能海らのグループは、尊王思想と神道が廃仏毀釈を推進した元凶であると知りながらそれらに与し、攻撃の矛先をキリスト教にむけている。この点からみれば、能海らの活動は明治維新前後の「尊王攘夷」そのものというほかない。
能海思想研究の出発点
以上の研究発表を受けて、今枝由郎教授(京都大学特任)に総評をしていただきました。今枝教授は、能海を、早熟で能力の高い宗教家であったと評価する一方で、『世界に於ける仏教徒』については口語訳して公刊するとなると難しい側面が多すぎるとも述べられました。これまで研究会等で、能海の著書がここまで批評の対象になることはなかったでしょう。多数来場されていた能海研究会のメンバーには反感を抱かれたかもしれませんが、浅川教授によると、一人の女性会員から「これまで思っていたことを代弁してもらえてすっきりした」というコメントもいただいたそうです。質疑で最後にコメントされた中原斉氏(鳥取県教委文化財課長)は、このシンポジウムが能海思想研究の出発点となるであろう点で有意義であったことを強調されました。

 

【関連サイト】浅川研究室ブログ
能海寛生誕150周年記念国際シンポジウムの報告(1)
能海寛生誕150周年記念国際シンポジウムの報告(2)
能海寛生誕150周年記念国際シンポジウムの報告(3)
能海寛生誕150周年記念国際シンポジウムの報告(4)
能海寛生誕150周年記念国際シンポジウム(予報2)

 

 

森彩夏さんの講演(第二部)森彩夏さんの講演(第二部)
浅川教授の講演(第二部)浅川教授の講演(第二部)
今枝教授の講評今枝教授の講評
山田協太准教授(筑波大学・本学元助教の質疑)山田協太准教授(筑波大学・本学元助教の質疑)